2018年11月30日
残波岬の波(11)

残波岬灯台。現在補修工事中。春から長く続いているが
12月には終わる予定のようだ。
青空。空の高みに巻積雲、その下に綿雲がぽつぽつと浮び
流れていく。風光明媚な景勝地も去った台風の爪痕がまだ
残っている。手前の岩の上の枯れ枝を取り除き、工事中の
灯台を撮った。
補修工事中の写真はこれまで一枚も撮ったことがなかった。
撮ったものを見てみるとなかなかいい。「どこかの国の仏塔
のようだ」と言われるとそのようにも見える。
残波岬に来た目的は灯台ではなく、高く舞いあがる波飛沫。
「風速11。風向北東。波高3→2.5」と気象予報。そして数
日晴れが続いていた。久し振りに波飛沫が撮れそうだった。
そして撮れた。また、何年ぶりかに夕日の光芒も撮れた。
いい日になった。

遠くから舞い上がる波飛沫が見えた。荒れた岩場を下る。
ここ数年は外国からの観光客がぐっと増え。辺りの岩場は
踏み慣らされて滑らかになり肌色になっているカ所も少な
くない。滑らかになった上は歩き易くはあるが荒れた印象
を受ける。


岩場を移動。観光客風の若者数人が岬の先端の方へ
行くのが見えた。写真を撮るためかと思ったが、先端の崖
下を覗きたかったようだ。しばらくすると戻ってきた。
すぐ上の空にぽっかりと雲も流れてきた。波飛沫が立ち上
がるのを待ち、若者の3人の影を入れシャターを押した。

沖の海原に波高のうねりも見えず気予報ほど風は強くない。
波飛沫が遠くまで風に運ばれてくることはなかったので、波
飛沫が正面から撮れる岩場にさらに移動した。

強風が断続的に吹く。高く白い波飛沫が舞いあげる。


風が弱まりしばらく間があると他に目が向く。
隣の逆巻き寄せくる波も気になる。

雲は刻一刻変化する。灯台と雲にも気がいき目を奪われる。
残波岬灯台、高さは約31メートル。南西諸島随一の高さという。

いい雲だ。灯台は上の部分だけ切りとり構図をつくる。
いつしか目的を忘れそうになる。こういう時に限り素晴らしい
波飛沫が舞う。そういう気がする。逃がした魚は大きい。二兔
追う者は一兔も得ず。昔覚えたことわざも心に浮ぶ。


波飛沫の高さは約8メートルくらい。

この日、一番素晴らしかった波飛沫。
カメラは連写機能にしている。崩れ落ちるまで数枚撮れる。
その中からいいものを選択する。

素晴らしい波飛沫は2~3回ほど連続する。そして間が空
きまた起きる。風次第。間が空きすぎるとよそ見をし見逃し
てしまうこともある。
飛んできた飛沫がカメラのレンズにつくこともある。拭き取
っているときに限って空高く舞う素晴らしい波飛沫が立つ。
逃がした魚は本当に大きい。真理だとつくづく感じる。
次の波を待てば良い。心が呟く。人は自らの心の中で呟く
言葉に支配されやすいと心理学は教えている。
・・・「待つ」という言葉の連鎖で、歌手の淡谷のり子がインタ
ビューで語っていたことを急に思い出した。昔のラジオ番組
だったかと思う。
ーーどうして結婚をしなかったんですか?
ーーバスはまだ来ると思ったの。
淡谷のり子が待っていたバスがどのようなバスだったかは
知らないが、・・・・残波岬にも横綱・大関クラスの素晴らしい
波飛沫はもう立たなくなった。かなり潮が満ちてきたため、
岸や岩礁を打つ波も弱まってきている。
波を撮り始めてからかなり時間が過ぎていた。

細長く舞い上がる波飛沫。

四角になった。

三角にも斜めにもなる。
波飛沫は上がるが勢いはなく迫力もぐんと落ちてきた。
そろそろ切り上げ時。

岩の窪みの潮溜まり。
水面に波飛沫が写らないか期待し覗いたが絵になるほど
の写りはなかった。
西空は水平線上に雲が多くなった。夕陽の光芒が出ている。


水平線上に島影。
ケラマの島影はもっと左側なので画面の外になる。渡名喜
か粟国の島だろうか。蜃気楼で浮び見えたのだろうか。

波飛沫と光芒。
もっと形のよい波飛沫を待ったが、結局現われなかった。
光芒が射す雲も低くなって来ていた。撮る位置を変えれば
よかった。何故思いつかなかったのだろうと悔やまれる。



残波岬で光芒を撮ったのは何年ぶりだろう。
あのときは飛ぶ鳥も一緒に撮れた。なつかしく思い出す。
(→当ブログ「シュトルツの詩「海辺」2017、3,12)

残り少なくなっていたカメラのバッテリーがアウト。万事休す。
光芒が撮れたので満足できる。
岩場から上に戻ろうと振り返ると、観光客の男性がひとり岩
場まで下り近くに立っていた。声かけると日本語はわからな
いとうふうに「香港から来た」という。カメラは持っていなかっ
た。海の息吹をより近くで感じたかったようだ。
別れて灯台のふもとにいくと十数名ほどの観光客がいた。
皆、黙って夕映えの西空を眺めていたりカメラやスマホで撮
っていた。
夕日の沈む光景を見ようと期待しているようでもあったが、
雲の切れ間からごく僅かな部分が1分ほど見えただけで、
夕日はすぐ雲に隠れた。
それでも夕映えの空は美しく、太陽が没し20分ほどするとさ
らに美しくなった。マジックアワー時間の西空を眺めじっとた
たずむ観光客の黒い影は動かない。
夕ぐれの時はよい時
かぎりなくやさしいひと時
・・・・・・
風にゆられていた草の葉が
たちまち静まりかえり
小鳥は翼の間に頭(こうべ)をうずめる
(堀口大學の詩「ゆうぐれ時はよい時」の一節)
サトウキビの葉先やススキの穂のシルエットが続くうす暗くな
った帰路。車窓から西空を仰ぎ見ながら車を走らす。
もう一個バッテリーを購入しようか考えていると、腹が減って
きた。昼から何も喰っていなかった。